[閑話休題]『愛護』誌にみる優生手術の捉え方と旧優生保護法に基づく強制不妊手術被害者救済への動き

以前、旧優生保護法によって強制不妊手術を受けた人たちの国賠訴訟とそれに斬り込んだ『さぽーと』20185月号の今月の切り抜き優生手術の被害者の救済を」(三瀬修一弁護士・本誌編集委員)の記事を基に、協会と優生学・優生思想・パターナリズムの問題として前編後編の2回に分けて、本組合掲示板ブログで報告した*
その後、いくつかの動きがあり、また協会以外の他の障害福祉団体は過去の検証を行っているので、それらを拾い上げてご紹介したい。

* 但し、アクセス統計を見る限り、他の記事に比べてあまり読まれていないようで少々残念…。 ; ;

『愛護』誌にみる優生手術への評価(追記)

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『みんなのねがい』2018年12月号

全国障害者問題研究会発行の『みんなのねがい』では、2018年10月号から「優生思想の歴史を学ぶ 優生保護法と障害者」というコーナーを設け、船橋秀彦氏(全障研茨城支部)が連載執筆している。その中で、201812月号では「第3回 優生手術と施設運営者」について記され、日本精神薄弱児愛護協会(現・日本知的障害者福祉協会)創設者の面々が施設収容者の断種を容認していたことが論じられている。
以前の本ブログ記事の中で戦前・戦後の『愛護』の記事から、戦前と戦後では捉え方は異なるものの、優生手術を利用者に施すことを推進、とまではいかない場合でも容認していたことを記したが、その際に見逃していた『愛護』誌上の記事論稿もあり、折角なので全文引用したい。

これからご紹介する記事は国策として猛威を振るっていた当時の話と、それが下火になっていった時期との違いはあれど、施設関係者の苦悩や忌避感が表されている。

先ずは、筑波学園(現・筑峯学園 初代園長・岡野豊四郎)の2代目の園長である中村澄夫氏の『愛護』への投稿である。

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『愛護』1959年9月30日号(p.6)

「精博兒と優生手術について」筑波学園長 中村澄夫

精薄児と優生手術との関係は別に目新らしい話題でもないが、優生手術は医師の診断によって公益上の必要と認めたものに対して、医師の責任に於て優生保護審査会に手術の適否について申請されることは御存知の通りである。
私共精薄児施設に働くものとしては、精薄児が将来成人した後、遺伝の関係から精薄児を生み又、生ませることによって生ずる悲劇を一つでも少なくするよう常に努力をしなければならないところだろう。では一体どの程度の薄弱児に対して手術を実施することが望ましいのだろうか、強度の薄弱者は性的に無能であり、遺伝の危険性も少く、最も遺伝性の危険のあるのは魯鈍級、痴愚級児ということはうなづける。さて、一般的な考え方からすれば、精薄児の如き劣等分子はこの社会から淘汰することは望ましいことであろうが、またひるがえつて優生手術を実施される精薄児の側に立って考えてみると精薄児も魯鈍級児ともなれば或る程度の生活能力を持ち、将来夫婦生活を営むことも出来る訳で、その際世間の人並に子供がほしいと考えることが必ずあるであろう。私は手術を受けたため一生子供は生むことは出来ないんだと、大きな悲しみに沈む時、私達はどうなぐさめたらよいのだろうか。又一方「下手な鉄砲数撃ちゃ当る」という諺があたるかどうか判らないが、精薄者の生んだ子供といえども数の中には普通或いは以上の知能を持ったものがあるはづである、事実、どう見ても母親は精薄者であるが、子供の内の何人かが普通知能で親孝行しているという例が身近に沢山ある。精薄者である親にとって普通知能の親孝行な子供があるということは将来の生活の保障ということにもつながっている。
このように優生施術は人間の自由と幸福を犠牲にして行わなければならないという一面もあり、ヒューマニズム的見地からすれば、精神薄弱児に対する手術実施について躊躇せざるを得なくなる。
公益上という毅然とした法律上の言葉の解釈もこう考えると難しくなる。
私は優生手術実施希望者の名簿提出について衛生部から連絡を受ける度に、このようなことを考えて何かやるせない思いに沈むのである。——『愛護』1959930日号

恐らく県の衛生部からの優生手術実施“希望”者の名簿提出が頻回にあったのだろう、知的障害者の人権に憂慮の念を抱き、苦悩している様子が見て取れる。

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『愛護』1975年11月号「特集 群馬大会」

時代は20年近く下って、『愛護』1975年11月号「特集 群馬大会」の第11分科会「治療教育を進めるにあたって健康管理はどうあるべきか」のまとめの中に以下のような記述が見られる(誤字を訂正)。

「小杉先生**から発題された性の問題には、参加者から多くの事例や意見が出されたが、障害者故に隔離や優生手術等短絡的な手段により安易に処置すべきでないこと、管理面を強調する前に、児童の時から、性の問題をタブーにせず、正面から取り組んで、適切な指導がなされるべきことを等が方向づけされた。」

** 小杉長平(1909-1983 東京都立青鳥養護学校元校長・社会福祉法人すぎな会愛育寮元寮長)氏のこと。

1970年代は障害者解放・優生保護法反対運動が高まりを見せており、実力闘争も含めた一般社会への啓発活動が、当時の障害福祉施設関係者にも影響を与えていたと思われる。事実、1975年には旧優生保護法による不妊手術は「当事者の同意」に依らないもので、82件(全国の総数)***と2桁台にまで減少している。

*** 母体保護統計報告(優生保護統計報告)より

強制不妊手術被害者救済への動き

2018年12月10日、与党旧優生保護法に関するワーキングチームと優生保護法下における強制不妊手術について考える議員連盟は、それぞれが検討してきた優生保護法に基づく被害者の被害回復に向けた検討結果を一本化した「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する立法措置について(基本方針案)」****を発表し、来年の通常国会へ法案を提出する方針が示された。

**** 参照元「精神障害者権利主張センター・絆

しかし、旧優生保護法による強制不妊手術は国の施策として行われたにも拘らず、「…心身に多大な苦痛を受けてきたことに対して、我々は、真摯に反省し、心から深くおわびする」と記されており、「我々」などという曖昧な表現が採られたことは、優生思想・障害者差別の責任の主体を「国」と認めようとしない姑息な誤魔化しと言わざるを得ないものだ。また、一時金の支給に関する権利の認定は一定評価できるところもあるが、基本方針案は単に周知のみに留まっており、真に謝罪の上での救済を行うならば被害を受けた障害当事者の現況調査と本人への直接通知は不可欠である*****

***** 「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する立法措置について(基本方針案)」に関する弁優生保護法被害弁護団コメントを参照。

全国手をつなぐ育成会連合会は検証結果を公表したが…

この基本方針案は全国紙でも大きく報じられ、2018年12月11日付『朝日新聞』朝刊では「強制不妊救済法案 提出へ」と題され1面に、そして社会面に当事者の声を交えて記事が掲載された。その中に「知的障害者の会 過去の機関紙 手術を助長する記事掲載 反省」という関連記事が載っていた。「知的障害者の会」とはどこだろう?と思い、読んでみると全国手をつなぐ育成会連合会(旧・全日本手をつなぐ育成会、以下、育成会と略)のことであった。
育成会のweb siteで確認してみると、12月5日に機関誌『手をつなぐ』に優生手術実施を助長する記事を掲載していたという検証結果報告書(「旧優生保護法・強制的不妊手術に対する検証会」報告書)を纏め、それを受けて、12月10日に会としての意見表明を行っていることを知った。

報告書の中での『手をつなぐ』の記事の纏めは、戦後の知的障害福祉の暗黒面を知る史料的価値があるもので、これを切っ掛けに過去の過ちを率直に反省し、被害者への具体的な補償へと繋がれば良いと思う。
しかし、考察と提言として記されている、育成会として情報提供・相談体制を整備するのは良いとしても、過去、育成会が国の施策を推進して来た経緯を鑑みて、「“わが子に手術を受けさせてしまった”という加害の意識から相談しづらい親・家族がいることをふまえ、“声を上げていいんだ”と思えるような周知を検討すべき」という待ちの姿勢は実効性があるのだろうか?という疑問が湧かなくもない。例えば、全日本ろうあ連盟は、当事者やその家族・親族への聞き取り調査を行い、実態解明へと積極的かつ具体的な活動に取り組んでいる。

また、支援者や福祉事業者を介したアウトリーチ的な連携として、日本相談支援専門員協会や日本知的障害者福祉協会と協力体制を組む、とされている。日本相談支援専門員協会が旧優生保護法による強制不妊手術の被害者救済にどう取り組んでいるか不知であるが、日本知的障害者福祉協会は、国賠訴訟が起こされ、その実態が国会でも取り上げられ、世間に大きく報道されても、『さぽーと』20185月号でコラム子が取り上げたのが唯一で、協会の見解は示されてはいない。この問題に関して過去の関わりの検証や被害者救済に向けて協会が取り組んでいるとは言えない。
連携先団体と問題意識の共有や意志一致が先ずは図られなくてはならないのではないか。

強制不妊手術被害者への救済法案の骨子が示される中、日本知的障害者福祉協会は他の障害福祉団体からの連携の呼びかけにどう応え、どう取り組もうとしているのだろうか?

…The end

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